自由診療で高額な医療費をイメージさせる再生医療ですが、その全てが自由診療ではないことをご存知でしょうか。再生医療の種類によっては保険診療で行えるものもあり、保険診療と自由診療が混在するため、正確に理解するのが難しくなっています。
 
そこで本記事では、
 
●      再生医療と診療報酬の関係
●      再生医療の具体例
●      再生医療の最新動向
 
これらについて解説します。
 
再生医療と診療報酬の関係について解説にしますので、ぜひ参考にしてください。
 

再生医療と診療報酬

 
再生医療と診療報酬の関係については、以下3つのケースがあります。
 
保険の適用があり、全額が保険診療になるケース
保険の適用がなくて、全額が自己負担になるケース
評価療養の対象となり、一部が保険診療になるケース
 
それぞれ見ていきましょう。

 

全額が保険診療となるケース

 
厚生労働省が認可し、保険収載されている再生医療は、全額が保険診療になります。
これは保険医療機関が、日常の診療で行っている通常の保険診療と同じ扱いです。
 
再生医療は新しい治療法になりますので、有効性と安全性が確立されたものだけ、標準治療として厚生労働省が認可し保険適用となります。
 
例えば、急性移植片対宿主病や虚血性心疾患による重症心不全、これらの治療に使用する再生医療は、厚労省が認可する再生医療等製品として保険収載がされています。
 
2024年現在、再生医療等製品として承認されているのは全部で19品目ありますが、いずれも希少性や難治性の疾患を適応としています。そのため、一般の医療機関で提供されることは少ないでしょう。
 
 

自由診療となり全額自己負担になるケース

 
厚生労働省の認可がなく、保険収載がされていない再生医療は、全額が患者さんの自己負担となります。自己負担の範囲は、再生医療の診療を行った後の経過診察、その後の診療行為も自己負担の範囲となります。
 
そのため、経過観察の期間を短くして、患者さんの自己負担は減らそうと考える方もおられるようですが、再生医療等安全性確保法によって、再生医療の提供患者数や経過観察の記録を残すよう定められています。
 
医療機関としても、何回か通院をしてもらう必要がでてきますので、事前に患者さんへ説明しておかないとトラブルの原因となる可能性があります。[2*]
 

評価療養となり一部が保険適用となるケース


保険収載がされていない再生医療であっても、評価療養に該当するものであれば、一部は保険適用となるケースがあります。つまりは、基礎的な診療の部分は保険診療で行い、評価療養の部分が自費診療で行うことになります。
 
評価療養として該当する治療には、先進医療Bで申請されてるケースがあります。
例えば、難治性の眼表面疾患である再発性翼状片に対して、ヒト乾燥羊膜を用いた治療があげられます。この治療法は臨床研究としても行われているため、条件を満たせば評価療養と認められる可能性があるでしょう。
先進医療Bそのものが、新しい技術や治療法であり安全性や有効性の評価が進行中のものを指しています。そのため評価療養と扱われやすくなります。[3*]
 
 
もし、評価療養に該当すれば、再生医療の提供のみが患者さんの自己負担となります、[1] [2] それ以外で発生する医療費は保険での診療ができるため、患者さんの選択の幅を広げられる可能性があります。
 
その一方、医療機関にとっては、保険診療と保険外の診療を併用して行うため、保険請求やレセプト点検の煩雑さが増してしまいます。さらには、提供しようとする再生医療が評価療養として算定するための要件などにあってるか、事前に確認することが必要でしょう。
 
※評価療養とは
評価療養は、新しい医療技術や治療法が保険適用の対象にするべきか否かを判断するための制度です。療養全体にかかる費用のうち、基礎的部分の療養については保険適用し、評価療養の対象となる療養については自己負担となります。そうすることで、全額自己負担よりも患者さんの費用負担は少なく、選択の幅を広げやすくなる制度となっています。
 
※評価療養に該当するもの
●      先進医療
●      医薬品、医療機器、再生医療等製品の治験に係る診療
●      医薬品医療機器法承認後で保険収載前の医薬品、医療機器、再生医療等製品の使用
●      薬価基準収載医薬品の適応外使用
   (使用目的、効能、効果等の一部変更の承認申請がなされたもの)
●      保険適用医療機器、再生医療等製品の適応外使用
   (使用目的、効能、効果等の一部変更の承認申請がなされたもの)

[4*][5*]
  

再生医療の具体例(変形性膝関節症の治療から)

 
日本人の中でも少なくない変形性膝関節症ですが、適用によっては、自由診療と保険診療それぞれの再生医療が選択できます。
 
少し古い統計ですが、厚生労働省によると変形性膝関節症の患者数は、自覚症状のある患者数が約1,000万人、潜在的な患者数だと約3,000万人と推定(2007年)高齢化が進む中、さらに需要の高まっていく治療ということが想定されます。
 
ここでは、再生医療と診療報酬の関係の観点で紹介します。

[6*]
 

PRPや培養幹細胞注射を用いた自由診療

 
PRPや培養幹細胞注射を用いた、変形性膝関節症の治療は、保険診療として認められていないため自由診療となります。
 
PRP療法は、患者さんの自身の血液から血小板を含むPRPを抽出して、膝関節内に注入する方法です。血小板に含まれる成長因子によって、炎症を抑制したり、関節の変形の進行を抑止したりする効果が期待されている治療法です。
 
また、培養幹細胞治療では、主に患者さん自身の脂肪を採取し、間葉系幹細胞を抽出、培養して、関節内に注入する方法です。間葉系幹細胞には炎症を抑制したり、関節の変形の進行を抑止したりする効果が期待されています。
 
自由診療の価格は、医療機関ごとが独自で設定できます。そのため、自院で導入しようとする際には、周辺で実施している医療機関の価格、医療機関全体の相場から価格を決めることが望ましいでしょう。
 
 

自家軟骨培養移植による再生医療

 
膝関節の治療で保険適用されている再生医療もあります。
 
自家軟骨培養移植は、患者さんの軟骨組織を取り出し体外で培養をして、培養した軟骨を欠損した膝関節に移植することで治療しようとするものです。
 
2013年から保険適用され、大学病院や基幹病院を中心に実施されていますが、施設基準や地方厚生局の届出、研修の受講などが必要だったりします。そのため、手術件数を10件以上の病院は、全国で30軒にも満たない状況のようです(2021年12月)
 
また、自家軟骨培養移植で保険が適用されるのは、外傷性軟骨欠損症または、離断性骨軟骨炎(変形性膝関節症を除く)とされているため、適応範囲の狭さも課題だそうです。
 
そのほか、保険適用がされている再生医療の例として、外傷性脊髄損傷の治療があります。患者さん自身の骨髄から間葉系幹細胞を培養して点滴で体内に戻す再生医療で2018年に承認されたものです。
 
当時、薬価は1,500万円もの価格がつき、その高額さからも話題になった再生医療です。

[7*] 

再生医療の最新動向

 
ここでは、2024年現在までに保険適用されている再生医療等製品の一覧、提供している医療機関数を紹介します。
 

2024年保険適用されている再生医療等製品


2024年現在、承認済みの再生医療等製品は下記19製品となります。

承認年 一般的名称 適応対象
2015年 ヒト骨髄由来間葉系幹細胞 急性移植片対宿主病
2015年 ヒト骨格筋由来細胞シート 重症心不全
2016年 ヒト表皮由来細胞シート 先天性巨大色素性母斑
2018年 ヒト表皮由来細胞シート 栄養障害型表皮水疱症
2018年 ヒト骨髄由来間葉系幹細胞 外傷性脊髄損傷
2019年 ヒト軟骨由来組織 外傷性軟骨欠損症
2019年 チサゲンレクルユーセル B細胞性急性リンパ芽球性白血病
2019年 べペルミノゲン ペルプラスミド 慢性動脈閉塞症における潰瘍
2020年 オナセムノゲン アベパルボベク 脊髄性筋萎縮症
2020年 ヒト角膜輪部由来角膜上皮細胞シート 角膜上皮幹細胞疲弊症
2021年 アキシカブタゲン シロルユーセル 大細胞型B細胞リンパ腫
2021年 リソカブタゲン マラルユーセル 大細胞型B細胞リンパ腫
2021年 ヒト口腔粘膜由来上皮細胞シート 角膜上皮幹細胞疲弊症
2021年 テセルパツレブ 悪性神経膠腫
2021年 ダルバドストロセル クローン病に伴う複雑痔瘻
2022年 羊膜基質使用ヒト口腔粘膜由来上皮シート 角膜上皮幹細胞疲弊症
2022年 イデカブタゲン ビクルユーセル 多発性骨髄腫
2022年 シルタカブタゲン オートルユーセル 再発又は難治性の多発性骨髄腫
2023年 メラノサイト含有ヒト表皮由来細胞シート 白斑
2023年 ネルテペンドセル 水疱性角膜症
2023年 ボレチゲン ネパルボベク 遺伝性網膜ジストロフィー

 
※新たに適応が追加された再生医療等製品は最初の承認年を記載 
 

再生医療を提供する医療機関の推移

 
再生医療を提供する医療機関の数は年々増加しており、再生医療の実施に必要な「再生医療等提供計画書」から見ることができます。
 
厚生労働省の統計によると、この計画書を提出している医療機関は、5,476件とされています。(2023年12月時点)先に述べた、整形外科でのPRPや幹細胞注射、美容皮膚科の幹細胞点滴で広まっていることも要因なのでしょう。
 
今後も新しい治療法や技術が開発されれば、再生医療を提供しやすくなり、患者さんの治療の選択肢が増えることが期待されます。
 

まとめ

 
この記事では、再生医療と診療報酬の関係について解説してきました。
 
再生医療といっても、保険診療となるもの、全額が自由診療となるもの、または一部が自由診療とさまざまなものです。
 
今のところは、保険診療となる再生医療の種類は少ないですが、再生医療の将来性を踏まえて自院でできるところから始めることもよいのではないでしょうか。
 
再生医療と診療報酬の関係について、本記事で理解を深めていただければ幸いです。

 

[1*]参考:新再生医療等製品の承認品目一覧|医薬品医療機器総合機構矢印
[2*]参考:再生医療等安全性確保法|e-gov法令検索矢印
[3*]参考:臨床研究等提出・公開システム|JRCT矢印
[4*] 参考:先進医療の概要について|厚生労働省矢印
[5*]参考:保険外併用療養制度について|厚生労働省矢印
[6*] 参考:運動器疾患に関する有識者検討会について|厚生労働省矢印
[7*]参考:自家培養軟骨移植術が受けられる病院|再生医療ナビ矢印